国立公園などの自然保護区(以降、保護区)は、野生生物を人間活動による絶滅から守る上での砦であり、世界中で20万以上ヶ所に設置されています。しかし、野生生物を守る上で、保護区の配置は必ずしも効率的でないことが知られています。さらに優先的に守るべき分布の狭い種のほうが、保護区により守られていない傾向があることも欧米等で報告されています。本研究では、全国の絶滅危惧植物の分布情報の分布情報を統計モデルとシミュレーションにより分析しました。その結果、国内の保護区は、絶滅危惧植物の絶滅リスクを抑える効果があることが確認できました。更に、生物の分布を考慮せずに保護区を配置すると分布の狭い種は、保護区に含まれにくいために、局所的に絶滅しやすく、分布域が狭くなりやすい。その結果、分布が狭いためにますます新たに設置する保護区に含まれにくくなり絶滅リスクがさらに上がるという「絶滅への悪循環」が起こりうることも明らかにしました。もう少し詳しい説明についてはプレスリリース[ リンク]をご覧ください
管理放棄などの自然環境の人の過少利用は、開発をはじめとした人の過剰利用と併せて、生物多様性の大きな脅威になっています。淡路島のため池を対象として、管理放棄が植物の絶滅リスクを高めるうること、またその絶滅リスク評価の際には、管理者集団の人口などにより決まる各ため池の放棄のされやすさの考慮が不可欠であることを、統計解析に基づくとシミュレーションにより示しました。より詳細な説明は[ここをクリック]。論文自体のページは[ここをクリック] 指導した2016年度修士論文の内容です。
ため池は水生植物(いわゆる水草)の重要な生育地ですが、開発や管理放棄にさらされてます。そこで地域の水生植物の多様性を保全するための取り組みを行う必要がある取り組みついて調べました。詳細は、近日追加します。論文はオープンアクセス(だれでも見れます)→https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpls.2018.00599/full
生育地の連結は,個体や散布体の分散を適度に促進することで,個々の生育地に出現する種数に正の影響を与えると考えられています.この考えは連結する生育地を保全対象として優先的に選ぶことの根拠となっています.地域スケールで考えた場合でも,同様に“連結する生育地のセットを複数組”保全した方が,“孤立した生育地を複数”選ぶよりも多くの種を含むことができる(つまり高いγ多様性を示す)かもしれません.しかし,散布体が分散されることで種構成が非常に似通ったものになると,正味の種数は“孤立した生育地を複数”を選んだ方が,多くの種を含むことができるかもしれません.そこで,池群を単位とし地域スケールで考える場合、“複数組の連結する池群”と”複数の孤立した池”のどちらを選んだ方が高いγ多様性を保全できるのか.また,ため池間の連結がα多様性(池群の出現種数),β多様性(池群間の種組成の違い)とどのように関係しているかを調べました.結果,面積が同じ場合は,“連結する生育地のセットを複数組”選んだ方が,“孤立した生育地を複数”選ぶよりも高いγ多様性をカバーすることができました.これは“孤立した生育地を複数”選んだ方がβ多様性が高くなるものの,“連結する生育地のセットを複数組”選んだ場合に,α多様性が高くなることの効果が大きくなることによるものでした.これらから,もし保全できる面積が一定である場合は,連結する生育地のパッチのセットを選んだ方が望ましいことがわかりました.
ため池の水生植物の種多様性に注目して,生育地間の連結によってもたらされる散布体の,散布という地域スケールでのプロセスと,水質による出現種の選別という局所的なプロセスの相対的な重要性を,山間部の重ね池(複数の池が直線状に連結)で調べました.どちらのプロセスも水生植物の種多様性を決める上では重要でしたが,その相対的な重要性は,生育形により異なり,沈水植物では,水質が連結性よりも重要であったのに対し,浮葉植物では,連結性の方が水質よりも重要な要因となっていました。同様に出現したある種のある池における出現確率を予測するには,沈水植物では水質が上流の池に同種がいることよりも重要であったのに対し,浮葉植物では同種が上流の池にいることが注目する池の水質よりも重要であるということを示しました.この結果は,水生植物の種多様性を決めるプロセスの相対的な重要性は,生育形により異なることを示すとともに,水草の種多様性を保全しようとした場合,対象により重点的に行うべき保全対策が異なることを示唆しています.
ため池の水生植物の種多様性および水質を規定する周辺土地利用と,その土地利用が作用する空間スケールをGISと空間統計モデルを用いて調べました.種多様性は,市街地から負の影響を,淡水域から正の影響を受けるが,作用する空間スケールは沈水植物(池から周囲半径10,100m),浮葉植物(500m),抽水植物(1000m)の順に大きくなることを示しました.一方,水質は池の周囲半径250mの土地利用の影響を受けていました.水生植物の種多様性保全にはこの空間スケール内の土地利用に特に注意を払うべきであると提言しました.併せて,生物の分布や多様性に土地利用が作用する空間スケールを把握する新たな解析手法を提示しています.
北海道で定着が確認されている外来植物391種を対象に,侵略性の大きさ(分布域の広さ)がどのような特性と関連しているかを調べました.さらに分布域の広さを評価する空間解像度の違いが,選ばれる特性にどのような影響をもたらすかも併せて調べました.結果,導入や定着の成功と主に関わる,クローン繁殖を行う,飼料もしくは緑化に用いられる,北海道に導入された時期が早いという特性は,評価する空間解像度に関わらず侵略性を説明する特性として選ばれたものの,分布拡大の成功に関わる種子のサイズは,小さい空間解像度でのみ,その重要性が認められました.このことから,侵略性と関わる特性の一般化を図る際には,特に分布拡大と関連する形質については,空間解像度依存性を考慮にいれる必要があることがわかりました.さらに調査対象とした北海道では,今回侵略性が高いと認められた特性を持つ種の導入には留意する必要があることも提案しました.
外来種の侵略性と関わる形質の把握を,近年整備が進んでいる生物の分布や形質に関するデータベースの解析から行うことは,広域を対象として現象の一般的なパターンを見出すこととを目的としているマクロ生態学の研究の一つの例になります.この総説では,外来種の侵略性と関連する形質の抽出を行う際の考え方・留意点を解説したうえで,この分野の今後の発展について述べています.
カラマツ実生が,在来木本より形態的可塑性が高く,生育微環境に応じ形態を変化させることで,高い成長・生存を示す可能性をフィールドでの播種実験と3年間の追跡調査から示しました. この研究により,侵入種が生育環境に応じて可塑的に形態的を変化させるといった特性を示すことを初めて提示しました.
7年間の森林動態の追跡から,カラマツの上層木は,在来木本種の稚樹を被圧し,成長・生存を減少させるが,同種の稚樹にはほとんど影響を与えないことがわかりました.この非対称なカラマツ上層木による被圧が,カラマツが他の在来木本に優占できることの一因であることを示しました.本研究は,生物学的侵入は在来植物群集の動態に負の影響を示すことを示した数少ない実証研究です.
掘り取った実生の成長および菌根形成率の測定と,各生育微環境での土壌分析を行いました.菌根形成率は,生育微環境の土壌栄養に対応していたものの,実生の成長は,菌根形成率,土壌栄養のいずれとも同調していませんでした.これらから,外生菌根形成が実生の当年生長に与える影響は,光環境や競争などの生育微環境スケールの要因により被い隠されてしまうことが示されました.
引き抜きの効果の検討のため,年一回の引き抜きを実施した区画の継続的な観察を行ったところ,3年間の継続で,開花茎数は著しく減少しました.また,任意の大きさに切断した地下部の地上部再生をみることで,地上部再生と地下部のサイズの関係を調べました.結果,両者には正の関係がみられ,およそ2.4gの地下部(湿重)で,50%の地下部が地上部を再生させることがわかりました.このことから,複数年にわたり,可能な限り根を残さないように引き抜き続けることで,オオハンゴンソウを根絶できる可能性があります..しかし,抜き取りは非常にコストがかかるため,刈り取りなど,広範囲に対し低い労力で実行可能な方策との併用がもっとも現実的かつ有効であると考えられました.